『白鳩』No.147「特集ルポ」写真1

夫の謙二さんと自宅の倉庫の前で

岩田サトミさん(74歳) 福岡県東峰村
取材/多田茂樹 撮影/髙木あゆみ

猛烈に降り続いた雨

 岩田サトミさんの住む福岡県中南部の東峰村は、清流、大肥川に沿った谷筋に位置し、ゲンジボタルの生息地としても名高い風光明媚な山村である。ところが、大肥川は大雨が降ると暴れ川の様相を呈し、特に5年前に発生した「平成29年7月九州北部豪雨」では死者40人(東峰村・死者3人、朝倉市・34人、大分県日田市・3人)という、かつてないほどの大きな被害を受けた。

 この年、7月4日まで北陸付近にあった梅雨前線が、5日には西日本まで南下。島根県から大分県や福岡県にかけての地域で線状降水帯が発生したため、同じ場所で長時間にわたり猛烈な雨が降り続いた。

 岩田さんは恐ろしかった体験を、昨日のことのように思い出しながらこう語る。
「あの時は、7月5日の昼前から経験したことのない土砂降りになりました。主人は民生委員の会議で留守だったんですが、午後3時頃に避難指示が出ました。整体師をしている長男が『早う行かんと、橋が流れてしまうかもしれん』と言ってくれたおかげで、村の保健福祉センターに長男と避難することができました」

 一方、夫の謙二さんは会議が終わって車で帰宅の途中だったが、橋が危険な状態で通行不能となり、知り合いの家に避難しようとしていた。その時、突然ものすごい音がして道路沿いの山が崩れ始め、土石流があっという間に押し寄せて、乗っていた車が土砂に埋もれてしまった。やっとの思いで脱出し、九死に一生を得た。すぐにその知り合いのトラックに乗り、避難所に向かうことができた。

『白鳩』No.147「特集ルポ」写真2

豪雨災害後の岩田さん宅。倉庫の1階部分には土砂が流れ込んだ。岩田さんは、災害ボランティアによる泥出しのおかげで復旧できたことに感謝している。大量の流木も被害を拡大させた(写真は岩田サトミさん提供)

早めの避難を心がける

 翌日、天気が回復してから自宅に戻ると、近くの山が崩れていて、流れてきた土砂が玄関先まで押し寄せ、別棟の倉庫の1階は泥で埋もれていた。農作業用の軽トラックと乗用車も土砂に埋もれて、使い物にならなくなってしまっていた。

「しばらくの間は大変でしたが、それでも私たちはまだましで、橋が通れなくなり孤立してしまった地区では、家が完全に埋もれてしまったところもありました」

 岩田さん一家は夫婦が別々だったものの、早めに行動したため避難できた。だが、避難指示が出たにもかかわらず家に残った人たちは、後になって逃げようとしても土砂崩れで道がふさがれて通れず、近所の家の倉庫に逃げ込んだりするしかなかった。夜が明けてから自治体の誘導に従い、ようやく避難所に辿り着くことができたという。

 このような恐ろしい体験を経た岩田さんは、「避難指示が出たら、とにかく急いで逃げる」ことが必要だと感じたという。進んで避難することで、自分の命を守るだけでなく、自治体などに迷惑をかけないですむからだ。そして、避難する際には、自治体から配られた黄色いタオルを玄関先などに結んで、「避難済み」の目印にしている。

「大雨注意報などが出れば、おにぎりなどを作って準備します。他にもタオル、下着などの着替え、肌布団、薬などはいつでも持ち出せるようにしています。去年は5回ぐらい避難しましたが、お陰様で結果的には何も被害はありませんでした。避難所では近所の人たちと『また来たね』などと、和やかに話しているほどです」

『白鳩』No.147「特集ルポ」写真3

のどかな風景が広がる東峰村

地球温暖化防止は喫緊の課題

 岩田さんが生長の家の教えに触れたのは20代半ば。婚約相手との関係に悩んでいたところ、母親から生長の家の講師の個人指導を受けるように勧められ、練成会(*1)にも参加し、「人間は神の子である」という教えを学んだ。結局、婚約は解消し、1年後に知人の紹介で謙二さんと出会い、幸せな結婚に至った。ところが、結婚後はなかなか子宝に恵まれず、10年目にようやく妊娠が分かった時は子宮外妊娠で出産に至らなかった。その後、熱心に先祖供養や流産児供養をして神癒祈願(*2)も出し、13年目にして長男を授かることができた。

「今回の豪雨では、その長男のおかげで無事に避難することができました。水浸しの国道を長男の車で避難している最中は、ずっと『実相(*3)円満完全』と唱えていました」

『白鳩』No.147「特集ルポ」写真4

上/現在も護岸工事が続く大肥川 下/非常持ち出し袋を準備し、緊急避難にも対応できるようにしている

 生長の家では以前から、地球温暖化を防止することは人類の喫緊の課題として、その重要性を説いてきたが、岩田さんは今回の災害を通して、そのことを身をもって実感したという。

 人類が経済発展や物質的な豊かさを求め続けた結果、大量の二酸化炭素が排出され地球温暖化が進んだ。それは海水温の上昇や水蒸気量の増加を引き起こし、その影響で豪雨が頻発するようになった。さらに、今回の九州北部の豪雨災害では、土砂崩れによって山間部から大量の人工林が流木となって押し寄せたことにより、橋梁の倒壊や下流域の家屋、田畑に甚大な被害をもたらした。どちらも、自然との調和を忘れた結果引き起こされたと言える。

「近年、洪水の危険を身近に感じるようになり、自然と調和することの大切さが以前にも増してしみじみ分かってきました。生長の家が説く『神・自然・人間は本来一体』の真理の尊さを実感しています」

 岩田さんは今回の豪雨災害の経験から、自然の前では人間はいかに弱い存在であるかということを実感し、自然に対する謙虚な思いや畏敬の念を新たにしている。

*1 合宿形式で教えを学び、実践するつどい
*2 神の癒しによって、問題が解決するように祈ってもらうこと
*3 神によって創られたままの完全円満なすがた