I.Y.さん (39歳) 山梨県富士河口湖町 自宅の隣にある家庭菜園で。 取材/原口真吾(本誌) 撮影/堀 隆弘

I.Y.さん (39歳) 山梨県富士河口湖町
自宅の隣にある家庭菜園で。
取材/原口真吾(本誌) 撮影/堀 隆弘

 I.Y.さんの自宅は富士山麓の町、富士河口湖町にある集合住宅で、建物の裏にはちょっとした原っぱと、すぐ隣に入居者用の畑がある。夫の転勤に伴い、平成27年に横浜市から引っ越して来た。

 タンポポやハルジオンがあちこちに咲く5月のこの日、Iさんは、長女(8歳)、長男(5歳)、次女(2歳)と一緒に、キュウリとズッキーニの苗を植えた。ポットから苗をつかんで取り出そうとした長男は、Iさんに「野菜の赤ちゃんだから優しくね」と声を掛けられて慎重に取り出し、植えた後は葉っぱにかかった土をていねいに払ってあげていた。そうしているうちに、次女がネギ坊主の茎をぽっきり折ってしまい、近くにいた長女が「茎の中って空っぽなんだ」と覗き込み、においがきついと顔をそむけた。

「私は母から生長の家の教えを伝えられ、母親教室(*)では『子どもは神の子で、すばらしい神性が宿っている』ということを学びました。子どもたちには外に出て土に触れ、からだ全体で自然を感じてほしいと思い、家庭菜園を手伝ってもらっています。『ヤダ!』と言うこともありますが、いざ畑に連れ出すと、楽しく遊んでいるんですよ」

 夫と力を合わせて畑仕事を行い、収穫の達成感を分かちあうことで、夫婦の絆も深まった。

「夫は野菜に愛情を注ぎ、毎日一所懸命に育てていて、夫のすばらしさを再発見しました。子どもたちも、野菜作りに精を出す父親の背中を、よく見ていると感じます」

 山や湖など、まわりは自然が豊かで、家族でハイキングに出かけたり、キャンプをしたりしているが、Iさんの心に強く残っているのは、何気ない日常のワンシーンだという。

次女が1歳の時にニンジンを収穫して、満面の笑顔を見せてくれたことを、今でもよく覚えています。一般的には絵本やテレビから『ニンジン』というものを知るのに、次女は実体験から学んだんです。『ニンジン、ニンジン』と言いながら、泥が付いたままのニンジンでおままごとをしていました」

感受性がはぐくまれる

 富士河口湖町に引っ越して来た当初は、Iさんも子どもたちも家の中で過ごすことが多かったという。

「ふと、神奈川にいた時と変わらないなぁ、と思ったんです。それからは子どもたちと外に出て、自然との触れ合い方を少しずつ覚えていきました」

 家庭菜園を始め、原っぱに生えているヨモギを摘んで草餅を作ったり、栗の実を棒でつついて収穫したりと、すべてが初めての経験だった。だが、子どもたちが見せてくれた目の輝きはかけがえのない宝物になった。Iさんは味噌やシソジュース、干し柿づくりなどにも挑戦し、できなかったことができるようになる手作りの楽しさと、達成感を味わった。

原っぱに咲く花を浮かべておままごと

原っぱに咲く花を浮かべておままごと

「タンポポの花を煮詰めて砂糖を加えた蜜をつくったとき、ハチミツのような風味にびっくりしました。長男はとても気に入っていて、春が来ると『タンポポの蜜をつくろうよ!』とはしゃぎます。栗の実を落とした瞬間や、干しイモを炙(あぶ)っているときの子どもたちの横顔に、しあわせと暮らしの豊かさを実感します」

 自然のリズムに寄り添った暮らしの中で、子どもたちとの会話の中にも「干しイモはいつ食べれるの?」「カブトムシは出てきた?」「いつになったら雪が降るかな?」といった季節の話題が増えていった。長女は「お風呂上がりに見る、夏の夕焼けが最高」と言うようになった。

 一面が冬枯れのある冬の日、長男がどこからか小さなハコベの花を見つけてきて、Iさんにプレゼントしてくれたことがあった。

「その時は本当に感動しました。昨年の夏、雨が降り続いてゆううつな気持ちになっていたときは、雨が好きな次女が散歩をねだり、カッパを着て楽しそうにどこまでも歩いて行ったんです。子どもの純粋さを目の当たりにすると、大人はハッとさせられますね」

大切な人と自然をいつくしむ

 平成31年、若者による環境活動が世界に広がっていることをテレビのニュースで観たIさんは、環境問題について真剣に考え始めた。生長の家で「人間も自然の一部であり、すべては神のいのちにおいて一体である」と学び、地球温暖化を防ぐためにも、自然と共生する低炭素のライフスタイルが求められていることを知っていたのに、どこか他人事のように捉えていたことに気づいたという。

ベランダで野菜を種から育てている

ベランダで野菜を種から育てている

 節電やゴミの削減などに取り組み始め、さらにママ友たちに声をかけて「ごみひろいさんぽの会」を立ち上げた。ママ友だけでなく子どもたちも一緒に月3回、1時間半ほど近所のゴミ拾いを行い、フェイスブックに活動を投稿している。

「子どもたちも多く参加していますが、おさんぽ気分でみんな楽しんで拾ってくれますね。色とりどりの小さなプラスチック片をビンに集めたり、木の実や落ち葉を集めてお盆に盛り付けたりと、子どもは遊ぶ天才です」

 長女はゴミ拾いをきっかけに、マイクロプラスチックによる海洋汚染問題を絵本で学んだり、買い物に出かけたときも「これはプラスチックで、使い捨てだよね」と確認するなど、環境についての意識が高まっている。

「河口湖にアウトドアで訪れ、ゴミを捨てて帰る方もいますが、それはふだんから自然とのつながりがなく、“レジャー”という一時的なものだからだと思うんです。家族や大切な人と自然を楽しむ暮らしの中で、自然への感謝やいつくしみの気持ちは育つように思います。どこに住んでいても、感謝すべき自然はすぐそばにあるものです」

 自然とのふれあいは子どもの五感を刺激し、同じ体験をすることで、家族の距離はぐっと近づく。子どもたちの笑い声が響くIさんの家庭では、あたたかな家族の絆が育まれていた。

* 母親のための生長の家の勉強会