秋山宏次郎(あきやま・こうじろう)さん (一般社団法人こども食堂支援機構代表理事) 「SDGs17の目標は、持続可能な社会を実現するためにどうしても達成しなければならないものですから、皆さん、自分がキーマンなんだという当事者意識をもって臨んでほしいですね」と語る秋山さん 聞き手/遠藤勝彦(本誌) 写真/堀 隆弘ん 秋山宏次郎さんのプロフィール 一般社団法人こども食堂支援機構代表理事。SDGsオンラインフェスタ・ソーシャルイノベーションディレクター。企業版ふるさと納税の新たな活用モデル構築検討戦略会議・学識委員。企業から食品の寄付やフードロスを集め、全国のこども食堂に100万食以上を提供。大手企業の社員時代から他社や行政にさまざまな提案をし、内閣府認定の官民連携優良事例(全国5選)など、20以上の新規プロジェクト発起人として多くの案件を実現に導く。その他、大学での授業、講演、執筆活動まで幅広く活動するパラレルワーカー。バウンド著『こどもSDGs なぜSDGsが必要なのかがわかる本』『数字でわかる!こどもSDGs 地球がいまどんな状態かわかる本』(いずれもカンゼン刊)を監修している。

秋山宏次郎(あきやま・こうじろう)さん
(一般社団法人こども食堂支援機構代表理事)
「SDGs17の目標は、持続可能な社会を実現するためにどうしても達成しなければならないものですから、皆さん、自分がキーマンなんだという当事者意識をもって臨んでほしいですね」と語る秋山さん

聞き手/遠藤勝彦(本誌) 写真/堀 隆弘

秋山宏次郎さんのプロフィール
一般社団法人こども食堂支援機構代表理事。SDGsオンラインフェスタ・ソーシャルイノベーションディレクター。企業版ふるさと納税の新たな活用モデル構築検討戦略会議・学識委員。企業から食品の寄付やフードロスを集め、全国のこども食堂に100万食以上を提供。大手企業の社員時代から他社や行政にさまざまな提案をし、内閣府認定の官民連携優良事例(全国5選)など、20以上の新規プロジェクト発起人として多くの案件を実現に導く。その他、大学での授業、講演、執筆活動まで幅広く活動するパラレルワーカー。バウンド著『こどもSDGs なぜSDGsが必要なのかがわかる本』『数字でわかる!こどもSDGs 地球がいまどんな状態かわかる本』(いずれもカンゼン刊)を監修している。

国連サミットで採択されたSDGs17の目標

──まず最初に、SDGsとは何かということについて教えていただけますか。

秋山 SDGsとは、「Sustainable Development Goals」の略で、「持続可能な開発目標」という意味です。これは2015年9月に、ニューヨークの国連本部で開催された国連サミットにおいて、2030年までの達成を目指して採択された「我々の世界を変革する:持続可能な開発のための2030アジェンダ(取り組むべき課題・行動計画)」が掲げる「17の目標」と「169のターゲット」からなる国際社会共通の目標です。

 この持続可能な開発に求められているのは、「環境保護」「社会的包摂(社会的に弱い立場の人も含め、一人ひとりの人権を尊重すること)」「経済開発(経済活動を通じて富や価値を生み出していくこと)」の3つの要素の調和ということです。つまり、環境を守りつつ、すべての人を尊重しながら経済活動をしていくことが大切で、3つの要素のどれか1つが欠けても、持続可能とは言えないということなんですね。

──そうしたSDGsの基本的な考え方は、2015年の国連サミットで初めて打ち出されたものですか。

秋山 いや、これには前身がありまして、2000年、“ミレニアム”という言葉が話題になったことを覚えていらっしゃるでしょうか。このときに開催された国連サミットで合意されたのが、「ミレニアム開発目標」、SDGsの前身となるMDGs(エムディージーズ=Millennium Development Goals)です。

inoti141_rupo_3 このときに達成する国際社会の共通目標として、「8つの目標」と「21のターゲット」「60の指標」が定められました。

 その8つの目標とは、①極度の貧困と飢餓の撲滅、②初等教育の完全普及の達成、③ジェンダーの平等の推進と女性の地位向上、④乳幼児死亡率の削減、⑤妊産婦の健康の改善、⑥HIV/エイズ、マラリア及びその他の疾病の蔓延防止、⑦環境の持続可能性の確保、⑧開発のためのグローバル・パートナーシップの推進というもので、これらの一部については、その後、一定の成果が上がったわけです。

 具体的に言いますと、『MDGs報告2015』では、開発途上国で極度の貧困の中で暮らす(1日1ドル25セント未満で暮らす)人々の割合が1990年の47%から14%に減少し、初等教育就学率は、2000年の83%から91%に改善しました。また、HIVへの新たな感染は、2000年から13年の間に約40%低下したというものですが、その半面、課題も残りました。

──どんな課題でしょうか。

秋山 5歳未満児や妊産婦の死亡率については、改善は見られたものの目標には及びませんでしたし、女性の地位は、就職や政治参加などで男性との間に大きな格差が残りました。さらに、二酸化炭素の排出量が1990年比較で50%以上増加しただけでなく、人々の生活や子どもの教育は貧困層と富裕層、都市部と農村部の間で大きな格差があるという課題が残されました。

 こうした課題をクリアするために、2015年の国連サミットで採択されたのが、SDGsだったというわけなんです。

学校に通えない子どもたち絶対的貧困と相対的貧困

──SDGsが採択された背景には、そうした課題以外にも、世界が抱えているさまざまな問題があると聞いていますが。

inoti141_rupo_4秋山 先ほど、MDGsによって初等教育就学率が増加したという話をしましたが、世界には学校に通えない子どもがたくさんいて、5歳から17歳の子どもの5人に1人、約3億300万人が学校に行けない状況にあります。また、読み書きができない人は、15歳以上の6人に1人、約7億5000万人に上っています。日本人の識字率はほぼ100%で世界のトップクラスですが、アフリカの中には、識字率が30%以下という国もあるんですね。

 その最大の原因はなんといっても貧困なんです。家が貧しく、親を助けるために働かなくてはならなかったり、水道がない家に住んでいて、毎日、何時間も水くみに行かなければならないため、学校に行けない。学校に行けないと、将来いい仕事に就ける可能性が低くなって、ますます貧しさから抜け出せないという悪循環に陥ってしまうんです。

 貧困というと、世界には、1日1.9ドル(約200円)未満の生活を強いられている人が7億3400万人(2015年)もいるといわれています。1日200円未満の生活費では、食べ物、洋服、家など必要最低限の生活必需品を手に入れることは困難で、このような貧しさを「絶対的貧困」といいます。

──日本でも貧困が問題になっています。

秋山 そうですね。日本の場合、その多くは「相対的貧困」と言われるもので、4人世帯で年収約244万円以下の世帯がそれに該当します。日本の相対的貧困率は15.7%(2016年)となっていて、G7(主要先進7カ国)の中では、アメリカに次ぐ高い比率で、7人に1人の子どもが相対的貧困の状態にあると言われています。

 絶対的貧困と相対的貧困とでは、深刻さの度合いが違いますが、その国で生きていくのに困難を伴うという意味では同じですから、ぜひとも解決しなければならない問題だと思います。

地球温暖化が深刻化しさまざまな悪影響が及ぶ

──地球温暖化が深刻化しているというのも大きな問題ですね。

秋山 はい。CO2などの温室効果ガスが大気中に放出され、地球全体の平均気温が上昇する地球温暖化によって、2016年の地球の平均気温は、1891年の統計開始以来、もっとも高温を記録しています。それにより、大雨による洪水や干ばつなどが多発し、動植物の生態系にも被害が及んでいるだけでなく、農作物の収穫と生物多様性が減少し、絶滅する動植物も増えるなど、さまざまな悪影響が出ています。

 また、南極の氷が溶けたり、水温上昇によって海水が膨張することにより、陸地面積が減ってしまうという問題も発生します。

──今、絶滅する動植物が増えているという話がありましたが、現状はどうなっているんでしょうか。

秋山 私たち人間は、畑を作ったり牧畜をしたりするために、世界中の森林を伐採してきました。その結果、2000年からの10年間には、平均で1分間に東京ドーム約2個分(約9万9000㎡)というスピードで森林が消失しただけでなく、毎年少なくとも800万トンのプラスチックごみが海や河川に流出して環境を汚しています。

 地球上には多種多様な動植物が暮らしていますが、森林伐採や海洋汚染などでそうした動植物が暮らす環境が破壊され、25%の種が絶滅の危機にさらされています。IUCN(国際自然保護連合)によると、絶滅の恐れがある野生生物は、全世界で約3万8000種以上あり、このままでは、数十年のうちに約100万種の動植物が絶滅すると言われているんです。

 その他にも、多くの人が汚い水を使っているとか、企業が起こした公害でたくさんの人が苦しんでいるとか、児童労働などさまざまな問題があり、それらを解決するためにSDGsが採択されたわけなんですね。

「5つのP」と「17の目標」

──SDGsに掲げられている「17の目標」とはどんなものなんでしょうか。

秋山 この「17の目標」については、「5つのP」で考えると理解しやすくなると思います。5つのPとは、次のようなものです。

① People(人間)=すべての人の人権が尊重され、尊厳をもち、平等に、潜在能力を発揮できるようにする。貧困と飢餓を終わらせ、ジェンダー平等を達成し、すべての人に教育、水と衛生、健康的な生活を保障する。(目標の1~6)

② Prosperity(豊かさ)=すべての人が豊かで充実した生活を送れるようにし、自然と調和する経済、社会、技術の進展を確保する。(目標の7~11)

③ Planet(地球)=持続可能な消費と生産、天然資源の持続可能な管理、気候変動への緊急対応などを通じ、地球の劣化を防ぐことにより、現在と将来の世代のニーズを支えられるようにする。(目標の12~15)

④ Peace(平和)=平和、公正で、恐怖と暴力のない、すべての人が受け入れられ、参加できる包摂的な世界を目指す。(目標の16)

⑤ Partnership(パートナーシップ)=世界の人々の連帯強化の精神に基づき、グローバルなパートナーシップ(協力関係)によって実現を目指す。(目標の17)

──「5つのP」の中からそれぞれ代表的な目標をあげて、その目標達成を目指す理由を教えていただけますでしょうか。

秋山 ①の「目標1 貧困をなくそう=あらゆる場所のあらゆる形態の貧困を終わらせる」については、先ほども言いましたように、世界で7億人以上の人たちが1日1.9ドル(約200円)未満という極度の貧困状態で暮らしている現実があります。

 そうした状態で不平等が広がれば、経済成長に悪影響が及ぶほか、社会的一体性が損なわれ、政治や社会の緊張が高まって、情勢不安や紛争の原因になりかねないというものです。

 ②の「目標7 エネルギーをみんなに。そしてクリーンに=すべての人々の、安価かつ信頼できる持続可能な近代的エネルギーへのアクセスを確保する」は、このようなエネルギーシステムを確立すれば、ビジネス、医療、教育から農業、インフラ、通信、先端技術などのあらゆる部門を支えることができるというもので、逆に、このエネルギーシステムを利用できなければ、今後の人間開発(*)と経済発展の障害になるということです。

 ③の「目標12 つくる責任、つかう責任=持続可能な生産消費形態を確保する」は、今後、全世界でさらに多くの人が中間層となります。それに伴って天然資源に対する需要が増すため、消費と生産のパターンを変える行動を起こさなければ、環境に取り返しのつかない被害を与えてしまうというものです。

秋山さんが監修した『こどもSDGs なぜSDGsが必要なのかがわかる本』『数字でわかる! こどもSDGs 地球がいまどんな状態かわかる本』(カンゼン刊)

秋山さんが監修した『こどもSDGs なぜSDGsが必要なのかがわかる本』『数字でわかる! こどもSDGs 地球がいまどんな状態かわかる本』(カンゼン刊)

──④と⑤についてはいかがですか。

秋山 ④の「目標16 平和と公正をすべての人に=持続可能な開発に向けて平和で包摂的な社会を促進し、すべての人々に司法へのアクセスを提供し、あらゆるレベルにおいて効果的で説明責任のある包摂的な制度を構築する」については、SDGsを達成するには、すべての人々がいかなる暴力も受けず、民族や信条、性的指向に関係なく、安心して生活を送れるようにする必要があります。そのため、各国政府と市民社会、コミュニティーは結束して暴力を減らして正義を実現し、腐敗と闘わなければならないということです。

 ⑤の「目標17 パートナーシップで目標を達成しよう=持続可能な開発に向けて実施手段を強化し、グローバル・パートナーシップを活性化する」は、SDGsは先進国、途上国を問わず、すべての国に「誰一人取り残さない」ために行動することを求めています。SDGsを達成するには、各国政府、市民社会、科学者、学界、民間セクター(部門・部署)を含む全員の結束が必要だということですね。

2021年、SDGsの達成状況日本には厳しい評価が

──2015年に採択されたこのSDGsの達成状況はどうなっているんでしょうか。

秋山 世界165カ国の達成状況を分析した2021年版のレポートによると、上位3カ国は、フィンランド、スウェーデン、デンマークと北欧の国々が占め、世界一の経済大国、GDP(国内総生産)第1位のアメリカは32位、第2位の中国は57位で、第3位の日本は18位となっています。

inoti141_rupo_6 同レポートでは、国ごとに17の目標達成状況を4段階で評価しており、日本を例にとると、達成できているのは、「目標4 質の高い教育をみんなに」「目標9 産業と技術革新の基盤をつくろう」「目標16 平和と公正をすべての人に」の3つだけでした。「目標5 ジェンダー平等を実現しよう」「目標13 気候変動に具体的な対策を」「目標14 海の豊かさを守ろう」「目標15 陸の豊かさも守ろう」「目標17 パートナーシップで目標を達成しよう」については、「達成にはほど遠い」と、もっとも悪い評価になっています。

 特に、男女の給与格差をはじめとする女性に対する不平等は先進国で最悪レベルで、「ジェンダー・ギャップ指数」は、先進国で最低レベルの世界120位という結果になっています。

 2030年までの達成期限に向けてさらなる努力を続けていかなければならないのはもちろん、一度達成したからといってその後も好ましい状況が続く保証はありません。元に戻らないよう継続的に取り組んでいくことも求められています。

目標達成を前提に今やるべきことを考える

──2030年までにSDGsを達成するため、私たちは、どんな考え方を持てばいいのでしょうか。

秋山 一番大切なのは、「目標達成を前提にできることを考える」ということだと思います。分かりやすい例をあげると、テストでいつも60点しか取れないのに、先生から「次のテストで80点以上取る」という目標を設定されたら、皆さん、どうするでしょうか。「80点なんか取れるわけがない」「どうせ自分には無理」などとできない理由をあげるのは簡単ですが、それでは点数はなかなか上がらないですよね。

 SDGsは、持続可能な社会を実現するために絶対に達成しなければならない目標ですから、できない理由をあげて諦めてはいけないんです。では、目標を達成するためにどうしたらいいかというと、“考え方を変える”ということです。今「できるか」「できないか」に関係なく、目標実現のために「今やるべきことを考える」ことが重要なんです。目標の実現を前提にして考えていくと、これまでとは違ったアイデアが出てくるもので、それを行動に移すことが大切なんですね。

小さなことでもみんなが取り組めば大きな力に

──なるほど。私たち一人ひとりが具体的にどんなことをしていけば、SDGsの達成に貢献できるとお考えですか。

inoti141_rupo_7秋山 国連広報センターが発行した 「持続可能な社会のために ナマケモノにもできるアクション・ガイド」という小冊子では、4つのレベルで、今すぐ誰もができることが紹介されています。とても身近なところから始められるアクションが多いので、既に実践としているという方もいるかもしれませんが、ご紹介します。

 まず「レベル1」は、「ソファに寝たままできること」で、例えば見ていないテレビや必要のない照明を消せば、無駄な電力を消費せずにすみます。ソファに寝転がりながらスマートフォンを見ているときなどは、持続可能で環境に配慮した取り組みをしている企業を検索したりすることで、今度買い物をするとき、どんな企業の製品を買えばいいのかを知ることができます。

 また、LINEなどのSNSでいじめを見つけたりしたら、いじめている人を注意することもできますし、SNSで気候変動や貧困問題などについて書いてある投稿を見つけて、友だちにシェアするだけでもSDGsに貢献できるわけです。

 「レベル2」は、「家にいてもできること」です。洗顔やシャワーのときは、水を出しっ放しにせず、使うときだけにすれば水の節約になりますし、ドライヤーの使用もできるだけ少なくし、エアコンの温度も冬は低め、夏は高めに設定し、窓やドアの閉め忘れを防ぐだけでも電気の節約になります。

「後世のために持続可能な社会を残すということが、私たち大人の責任だと思います」

「後世のために持続可能な社会を残すということが、私たち大人の責任だと思います」

 「レベル3」は、「家の外でできること」です。2020年7月から日本でもレジ袋の有料化がスタートしましたが、買い物をする際は、エコバッグを持参すればお金を払ってビニール袋を買わなくて済みますし、社会問題になっているプラスチックごみによる海洋汚染や生態系の破壊を食い止めることにも貢献できます。

 また、着なくなった服や読まなくなった本などは、欲しい人にあげたらどうでしょうか。そうすれば、ものを無駄にしなくてすむし、あげた人も嬉しくなるはずですから一石二鳥です。

 「レベル4」は、「職場でできること」で、例えば、職場で性別や人種の違いや、LGBTの人に対する差別があったら声を上げましょうというものです。SDGsは、人の平等を目指していますから、声を上げることによって貢献できるわけです。

──私たち一人ひとりが生活のなかで心がけることによって、目標達成に貢献できることはたくさんあるということですね。

秋山 そうです。いま挙げた例はごく一部ですから、SDGsに貢献しようという意識をもって自分の周りを見渡せば、他にもたくさんあることに気づくはずですし、それは、レベル1から4のことについてはもう取り組んでいるという方にとっても同じだと思います。

 たとえ小さいことだとしても、みんなが取り組めば大きな力になり、未来を変えることにつながるわけですから、既に取り組んでいるという方にはさらに力を入れていただき、世界中の一人ひとりが今やるべきことを行って、みんなで持続可能な社会をつくりあげていきたいですね。
2021年8月31日、インターネット通信により取材)

*=人が自己の可能性を十分に発展させ、自分の必要とする生産的・創造的な人生を築くことができるような環境を整備すること