田村 修(たむら・おさむ)さん│70歳│札幌市南区 札幌市の自宅裏にある家庭菜園の前で。「雪が解けたらまた無農薬野菜を作ります」 取材/佐柄全一 写真/加藤正道

田村 修(たむら・おさむ)さん│70歳│札幌市南区
札幌市の自宅裏にある家庭菜園の前で。「雪が解けたらまた無農薬野菜を作ります」
取材/佐柄全一 写真/加藤正道

40数年にわたって神想観と先祖供養を続ける

 母親を通して、生長の家の教えに触れて育った田村修さんは、市営バスの運転手として働いていた22歳の時、生長の家青年会(*1)に入った。以来、熱心に教えを学ぶようになり、現在は生長の家相愛会(*2)札幌教区連合会長という要職を務めている。

 そんな田村さんが、青年の頃から日課にしているのが、生長の家独得の座禅的瞑想法である神想観と先祖供養だ。

 毎朝、午前5時に起床し、約30分ほど神想観を実修して、「神様のいのちと自分のいのちは一体である」という思いを深めて心を浄める。その後、仏前で田村家先祖代々の御霊(みたま)はもとより、平成5年に82歳で亡くなった父、平成18年、94歳で他界した母の名前を呼び上げ、聖経『甘露の法雨(*3)』を読誦して供養に努めている。

「聖経を読んでいると、神様、ご先祖様、父母からいのちをいただいて、今ここに生かされていることを実感し、感謝の思いが湧いてきます。特に父には、この先祖供養を通して感謝できるようになったので、先祖供養の尊さ、ありがたさを感じます」

酒を飲んで暴れる父親に反感を募らせた少年期

 田村さんは、北海道北部の中川町の農家に、8人きょうだいの6番目、五男として生まれた。小学生の頃から農作業を手伝うようになったが、子どもの頃、一番辛かったのが父親の酒癖の悪さだった。父親は、酒を飲んでは家族に暴力を振るい、いったん火が付くと、同居していた祖母が止めても収まらなかった。

仏壇の前で聖経『甘露の法雨』を読誦して先祖供養をする田村さん

仏壇の前で聖経『甘露の法雨』を読誦して先祖供養をする田村さん

「父は、母や子どもを叩いたりするので、私たちは怖くて逃げ回っていました。普段はいい人なんですが、酒を飲むとひどかったんです」

 そんな中にあって、家族を支えていたのが母親だった。結婚前に小学校の恩師からもらった『白鳩(*4)』誌を読み、「人間は神の子である」という教えに感動した母親は、生長の家を信仰するようになり、結婚後、自宅で誌友会(*5)を開くようになった。

 母親は酒癖の悪さに文句一つ言わなかったためか、父親は母親が生長の家を信仰することには寛容で、馬車やバイクで誌友会の参加者の送迎までしていた。

「朝起きると、いつも聖経『甘露の法雨』を誦げていた母は、私たち子どもをよく褒めてくれました。極貧の生活でしたが、どうにか生きていけたのは、そんな母が支えてくれていたからだと思います」

 そうした母親とは対照的に、飲んでは暴れることを繰り返す父親への反感は、長ずるにつれて増していった。決定的になったのは、6キロ離れた中学校に通うため、通学用の自転車を買って欲しいと父親に懇願したが買ってもらえず、兄たちが使い古した自転車で我慢させられたときだった。

「4人の兄たちは、新しい自転車を買ってもらったのに、私だけ買ってくれなくて、父は私が嫌いだから意地悪をしているんだと恨みました」

「父がまともにならない限り感謝なんてできない」

 傷心のまま中学校を卒業した田村さんは、美深町の自動車修理工場で住み込みで働くようになった。3年後に自動車整備士3級を取得すると、2級を目指して札幌市の大きな修理工場に転職。2年で念願を果たして定時制高校に入り、大型自動車二種免許を取得後、市営バスの運転手になった。さらに、通信制の高校に転入して勉学に励んだ。

「交代制勤務になって時間の余裕ができた22歳のとき、母親が信仰する生長の家を学んでみたいという思いが強くなり、生長の家札幌教化部(*6)に電話しました。そこで紹介してもらった青年会に入り、練成会(*7)や見真会(けんしんかい)(*8)などの行事に参加して教えを学ぶようになったんです」

「人間の生命は永遠生き通し」「人間は神の子で無限の力を持っている」という教えに感動し、以来、神想観を実修し、聖経『甘露の法雨』を読誦して先祖供養を行うようになった。その後、千波(ちなみ)さんと結婚して二男一女を授かった。

 信仰も深まり、幸せな家庭生活を送っていた田村さんだったが、心に引っかかっていたのが、生長の家で親への感謝の大切さを学びながらも父親に感謝できないことだった。

「その頃の父は、だいぶん大人しくなってはいたんですが、酒を飲んで暴れ、母や子どもに暴力を振るう姿が脳裏にこびりついて離れず、『悪いのは父だ。父がまともにならない限り感謝なんてできない』という思いが消えませんでした」

 そうした悩みを抱えながらも、神想観と先祖供養を続けていた32歳のとき、父親の思いに気づく出来事があった。

父親は何かを教えてくれる観世音菩薩だと分かって

 その頃、田村さんは、市営バスの運転手を辞め、知人から勧められて健康食品の販売業を営んでいた。ところが、自転車操業に追い込まれて経営が破綻し、自宅のローンと合わせて約3千万円の借金を負った。千波さんのパート収入で生活するという毎日を送っていたある日、5歳になった長男から「自転車を買って欲しい」とせがまれた。

「可愛い盛りで、親としては買ってやりたいのはやまやまなんですが、お金がないので買ってやれなかったんです。そのうちねと言ってごまかしたとき、はっと思いあたったことがありました。『父があのとき自転車を買ってくれなかったのは、私が嫌いで意地悪をしたのではなく、お金がなかったからだ。そんな父の気持ちが分からず、ずっと恨んできて申し訳なかった』と、初めて父の心を思いやることができたんです」

 だが、それでも父親への不信感を拭えないでいた平成5年、父親が82歳で亡くなった。それから先祖供養の中で父親の冥福を祈るようになったものの、心の片隅に「父は霊界でも酒を飲んで暴れているのではないか」という疑いを抱いていた。

自宅前で妻の千波さんと。「家内も信仰してくれるようになって嬉しいです」

自宅前で妻の千波さんと。「家内も信仰してくれるようになって嬉しいです」

 その一方で、自動車販売店に転職した田村さんは、健康食品販売のときに培った営業のノウハウを生かしてセールスマンになり、家族一丸となって頑張り、10年で借金を返済することができた。

「これは本当に神想観と先祖供養の功徳だと思い、神様、ご先祖様に感謝しました」

 そして、神想観の実修と先祖供養を続けることで、神のみ、実相(*9)のみが実在であり、すべての人は完全円満な神の子であるという「唯神実相」の教えと、現象はすべて心の現れであるという「唯心所現」の教えへの理解が深まるにつれて、ふと思い立ち、先祖供養のときに次のような祈りをするようになった。

「お父さん、ありがとうございます。完全円満な神の子であるお父さんが、酒を飲んで暴れていたように見えていたのは、お父さんを不完全な人間のように見ていた私の心の現れでした。お父さんは、私の中にそうした迷いの心があることを教えてくれた観世音菩薩様(*10)でした。お父さん、ありがとうございます」

 この祈りを続けるうちに、父親は、自分に大切なことを教えてくれていたのだと思えるようになった。すると、父親は母親の信仰を後押ししてくれた優しい姿に変わり、感謝の気持ちで一杯になった。30数年の月日をかけて、ようやく父親に感謝することができたという。

 以来、先祖供養をする度に父親の笑顔が思い浮かぶようになり、真心を込めて聖経(*11)を読むことができるようになった。

先祖供養の功徳ある人から全資産を譲られる

 46歳で自動車販売会社を退職し、損害保険の代理店を営むようになった平成30年には、先祖供養の功徳と思える不思議なことがあった。

 昔、生長の家の信仰仲間だった顧客の一人ががんで入院することになり、留守宅の郵便物を届けてほしいと頼まれた。その人は独身で身寄りもなかったため、気軽に引き受けると、家の手入れなどもお願いされるようになった。

 特に親しいわけでもなかったので戸惑ったが、これも生長の家で教えられている愛行(*12)の一つだと思って快く引き受け、家の手入れだけでなく、雪かきや買い物などの身の回りの世話もしてあげた。

「そんなとき、知り合いの行政書士から『成年後見制度というものがあるから、その人に話して了解をもらっておいたほうがいい』と言われ、その人に伝えると快く受け入れてくれたんです」

 しばらくして、田村さんは正式な後見人になったが、それから5日後にその人は他界した。残された遺言書には、田村さんへの感謝の言葉と全資産を譲る旨が記されていたという。

「決して少ない額ではなかったので驚きましたが、彼に喜んでもらえるよう人のためになることに使わせていただこうと、ありがたくいただきました。これからも一層、神想観と先祖供養に励んで、神様、ご先祖様、両親に感謝の思いを献げ、神様、ご先祖様、父母から受け継いだ尊いいのちを大切に生きていきたいと思っています」 

 そう言って田村さんは、晴れやかな笑顔を浮かべた。

*1=12歳以上40歳未満の生長の家の青年男女の集まり
*2=生長の家の男性の組織
*3=生長の家のお経の一つ。現在品切れ中
*4=本誌の姉妹誌
*5=生長の家の教えを学ぶ小集会
*6=生長の家の布教・伝道の拠点 
*7=合宿形式で生長の家の教えを学び、実践する集い
*8=生長の家の集まり
*9=神が創られたままの本当のすがた
*10=周囲の人々や自然の姿となって現れて、私たちに教えを説かれる菩薩
*11=生長の家のお経の総称
*12=生長の家の月刊誌頒布などの愛の行い